そう、遥か昔の…
6歳のときのハロウィンの日のことだった。

当時わたしは
集合住宅の団地に住んでいて、
そのときに同じ団地の子供たちと
一緒になって仮装してお菓子を貰って回ろう。

という計画がもちあがって、


私も参加することになったんだけど…

私は根っからの怖がりであまり行きたくなかったんだ。だけど…

「コロナ衣装できたわよ」


居間のほうから母のやりとげたといった雰囲気の言葉が響く
「…」私は返事をしなかった

別に格別行きたいなんて言った覚えはないし、
作ってとお願いした覚えもない。

それになによりも
行きたいとも思わないし
むしろ行きたくないという気持ちのほうが強いのだから。


ふてくされて自分の部屋で寝ころんでいると
母は自らやって来た

「ど〜したのコロナ?着ないの?着ないと今日みんなと一緒に行けないわよ?」
のんびりとした調子で
のんきに母は聞いてきた

あまりにイキイキした母を見るのが苦しくて
私は反対を向いてねころんだまま返答した

「行きたくないもん…。」
ぽつりとそう言う私に暫しぽかんとしていたようだが
やがてまた穏やかに話しかけてきた

「どーして?」
「だって…怖いんだもん…」
「なーに言ってるの!」

そう言って背後に来ると
母は私の肩を叩いた。


「みんなするんだから!あんたもしないと!じゃないと仲間はずれにされて怖がりだって馬鹿にされちゃうわよ!」
そう言うと母は私を起き上がらせた
「お母さんね…コロナが仲間はずれにされるほうがよっぽど怖い」


「…わかった…行くよ」
今にも泣き出しそうな声で言う母が痛々しくて
私は了解した。

しかし、
「そ!良かった〜だってお母さん頑張って作ったからさあ〜」
さきほどまでの暗がりはどこへやら…
まさか演技だったのか…などと思っていると

「ほら〜見てこの衣装!苦労したんだから〜」
そう自慢げに話す母のほうに振り返る。


「わあ////」
「どう?可愛いでしょ?あんたの大好きな魔女っ子の服よ」
母はしてやったりといった表情で話す。


そうその衣装は私の大好きな魔女の服。
箒で空を飛んだり
悪人を魔法でたおしたりする
アニメがあって
わたしはそれの虜だった

それは一種の憧れだったんだと思う。
その主人公は魔法使いであることを隠しながらも
魔法も使わずに沢山の人間のお友達をつくり、

明るくて優しい子だった
だからこそ憧れた
ああなりたい
あんな女の子になりたいと強く思った。


その思いとはうらはらに
引っ込みじあんな私は部屋からあまり出れずに、
団地のだれとも仲良くなくて
団地にどんなこが住んでるかすら知らないくらいだった。


そんな憧れの衣装を貰った私は上機嫌!
さっきまでの不安はどこへやらの勢いでウキウキだった。

「もうすぐ時間よ。早く着替えなさい。」
「はーい♪」 

「どうかな…?似合ってる?お母さん」
母が作った衣装があまりにも可愛かったので
私は似合う気がしなかった。

「うん!とっても似合ってるわよ!流石私の子供ね♪」
母はそう言って飛んで喜んだ。

「あら、いけない!そろそろ集合時間だわ!急ぎましょう!」
時計をみると4時50分だった。

集合は5時だから…マズイ…。


「急ごうお母さん!」
「あ、待って。」

急いで玄関に向かう私を母は止めると
「魔女にはこれがないとね☆」
そう言うと箒を手渡してきた。

なんだか今なら飛べそう…。
なんてファンシーな気分に浸りながら
幼い私はエレベーターへと母の手をひいて駆け出した。


続く

 

inserted by FC2 system