そんなときだった
「・・・・・・・サ・・・イッ・・・・サ・・・」
「!!」


聞こえた
誰かが呼ぶ声
必死に聞き耳をたて
音の方角を探る


あっちだ
そう思い見た方向
そこには
わずかだけど


光が見えた


泳ぐように
もがき、必死に
光を目指して


進む


手が届く


光に手を伸ばす
光に手が触れる


暖かい・・
すごく暖かい光で
心の底から
染み渡っていくような
暖かい光


はっとして目が覚める
「イッサ!!大丈夫か!?」
「ケ・・ンちゃん・・?」


気がつくとベットの上で
目の前には心配そうにこちらを見るケンちゃん
ニコっと笑ってみせると
ふうと息を吐いた
それと同時に目を吊り上げる


「バカやろう!!キツイんならなんで言わないんだ!」
目に沢山の涙をためて
ふりしぼるかのような声で
ケンちゃんは怒鳴った


いままでにこんなに怒鳴られたこと
きっとない
そんなふうにのんきに考えたのち
僕はケンちゃんに話しかけた


「ゴメンね・・ケンちゃん心配させたくなくて・・」
のどがカラカラのような声で
かろうじで聞こえるような声で
僕は言った


「声もそんなにしちまって・・・」
心配そうに目を細めるケンちゃん


「よかった・・・オレ・・オレ・・イッサがこのまま死んじゃうんじゃないかと思って」
目じりにためた涙を流しながら
ケンちゃんは言う


逆に心配させちゃって悪いことしたな
なんて思いつつも
それだけ心配してくれたケンちゃんが
なんだかとても
うれしかった


未だに零れ落ちる大量の涙を
乱暴にこすってぬぐうケンちゃん
すこしムスっとした表情で
ポカリと僕の頭をたたいた


「イタ!」
「心配させたバツだ!」
フンといって顔をベットのサイドテーブルに移すと
鍋のふたをあける


さっきまでなかったことから
ケンちゃんの作ってくれた
お粥であることは想像できた


ふたが開くと同時に出てきたいい匂いが
鼻に入ってくる


「おきれるか?」
「う、うん平気だよ」
これ以上心配させては悪い
その思いから起き上がって元気さを
アピールしようとしたが・・


「あ・・・」
頭が枕から浮いた瞬間
頭の痛さと疲労感が出て
また倒れそうになる

「・・・無理だな」
そう言ってベットすれすれのところで
ケンちゃんに支えられた


「ゴメン・・・」
どれだけ手間をかけさせたら気が済むのか
無力な自分がいやになる


「気にすんな風邪なんだからな」
そう言って僕をベットに寝かすと
お粥をスプーンですくい
2,3回息を吹きかけたのちに
僕の口元にはこんでくれた


「ほら、くわねえと治んないぞ」
「うん・・ありがと」
あんまり食欲なかったけど
心配させるわけにもいかないから
食べる
それに
せっかく作ってくれたんだもん


「あーん」


「ぱくり」


「お、おいしい」
予想以上に
いや予想外においしくって
僕はびっくりした

「へへ〜どうよ!なんてったって笹入りだからな!」
なるほどたしかに
僕の好物の笹が入っている


ケンちゃんでこそできた気づかい
それもあるけどやはり
上手


「ケンちゃん料理上手だったんだね!」
「なんだよ〜失礼だな!」
そんな風に笑いながら
進む食事
といっても僕だけだけど

きがつくと僕はお粥をすべて食べてしまっていた
食欲ないはずだったのに


きっとケンちゃんが作ってくれたから
そばにずっといてくれたから
食べられたんだろうな
そんなことを思って笑った


「おーし。飯も食べたしあとは薬のんで寝てりゃあ治るだろ」
空の鍋を片付けながらケンちゃんは言う
しかし、その中のある単語に
僕はピクリと反応する


「う、うん・・・でも薬はいいや・・・寝てれば治るし・・」
「な〜に言ってるんだよ!薬飲まないと治んないぞ!」
そう言うと粉の入った袋と水を僕に渡す


「う・・・」

2つを持ったまま僕は固まった
「・・・イヤ・・」
「へっ?」
「薬・・・イヤ・・飲まない!」
僕はそう言ってサイドテーブルに
コップと薬を置いて
ケンちゃんにそっぽを向いて寝始めた


「おい!なんでだよ!」
「苦いのイヤ!」
そう理由はまるでこども
だけど・・ホントにあの薬独特の苦さが

僕はたまらなく大嫌いだった


だから病気の直りがいつも遅い
だけど・・
クスリを飲むよりはまし
そう思いいままできたのだ


いくらケンちゃんがそばに居てもこればっかりはダメ


「飲まないと治んないぞ!」
「いいもん!そのほうがケンちゃん看病してくれるし!」
「おでかけできないぞ!」
「いいもん!」
そう言ってふとんにもぐりこむ


そういくら言われたって
何を言われたって
それだけはいや
ゆずれない


「・・・苦くなけりゃいいのか?」
「・・・いいけど・・・そんな薬ないもん」
やさしく問いかけるケンちゃんに棘のある言葉で返す
はやくあきらめてくれないかな


そんなことを思いながら
やさぐれていると


「ったく・・・」
そんな声が聞こえると同時に
コップを持ち上げる音が響く


あきられてくれた?
そう思いチラリと顔をだすと
その瞬間


「!!!!/////」
いきなり顔を強引につかまれて
キスをされた
下で歯をなぞられて
我慢できなくなって
口をあけると
水となにか苦いものが入ってきた


でもキスがとても甘くて貪欲で
苦さなんてまったく気にならなかった


しばらくしたのち
僕はやっと解放された
「ん・・・はぁ・・・ケ、ケンちゃん・・・///」
目を涙目にさせながらケンちゃんに言う


そんな僕をベットに寝かし整えるケンちゃん

「どうだ?苦かったか?」
そう聞いてくるケンちゃん
ズルイよそんなの・・そんなことを思って笑いながら
ケンちゃんに返す


「ううん」
「そうか。ならよかったな」
それだけ言うと
空の鍋とコップを持って
ドアのほうへと向かった

ドアの手前できびすを返すと
ケンちゃんは
「んじゃ、安静にして寝てろよな」
とだけ言うと部屋を出て階段を下りていった


甘い薬・・・
あったんだなあ
なんてことを考えながら

薬も悪くない
そう思いながら
頬を赤らめて
遠のく意識と
襲い来る押睡魔に
身を任せ


僕は眠りに落ちた

覚めたときにあるのが
元気な自分の体で
視界にうつるのが
愛しいあなたの笑顔であることを
祈りながら


きっともうあんな夢は見ないと
確信しながら


END 


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