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講義から戻ってくるとカーミーくんは立ち上がりすぐにお茶をいれる
「お疲れ様です、冷めないうちにどうぞ先生」
「ありがとう。…電話あったか…?」
「いえ…特にございませんでしたが?」

「そうか…」
何を期待して何を確認したのだろうか
まったくもっておかしな話だ…
電話などくるわけがないのに
「わい、今日から泊まり込みで研究作業に入るけどカーミーくんどないする?」
「もちろん、お供します」
興奮したように息巻く彼の姿にわいは苦笑いを返すしかなかった



「くさかげさん今日は何します?」
「今日はね、ライムさんが…」
「くさかげさん…大好きです」


トピ…
わいも…わいも…
ほんまは…ほんまは…


目が覚める
夢か…
座ったまま
いつの間にか寝てしまっていたらしい


またもや未練がましい…
決めてやったことなのになんて男らしくないのだろうか…


窓の向こうからはガラスを叩く音と風音が響く
天気はどうやら酷いようだ


立ち上がろとすると
肩にかけられた毛布が地面に落ちる
カーミーがよく膝にかけてるものだった
拾いあげ埃をはらう
簡単に落ちていく塵類
こんな風に自分も潔く思いを振り落とせないものか…
そう思って息をついた
「先生?お目覚めですか?」
声が響いて積み上がった本で埋もれた視界から彼の姿が現れた

「もう3日目ですし…ろくに寝てらっしゃらないですよ先生…」
わいに付き合っている以上それは彼も同じだ
彼もあまり寝てない
なのにその外見は涼やかなままだった


「せっかくの連休なんですし…」
「せやな…突き合わせてほんますまん…」
「いえ…そういう意味では…ただ先生かなり顔色悪いですよ…初日からよろしくないですし…それに…」
彼は口ごもった
自分の立場をわきまえたに違いない
彼はそういう子だ
行き過ぎや出過ぎた行動はしない
かといって気が利かないわけでなく引っ込み思案なわけでもなく
つねにわきまえた位置にいる


わいの周りにいる
出過ぎる猫や
世話を焼きすぎる犬
しなさすぎる兎

今までわいの周りにはいないタイプ


「ええよ素直に言うてみ」
「あくまで僕の意見としてですが…」
そこまで言ってまた口ごもった
わいはにこやかに頷いて見せ彼の話の続きを促した

「そんなに急ぐ実験と研究ではないかと…」

やっぱり気づかれていたか

「初日から気いついてたやろ?」
黙ったまま彼は軽く頷いてみせた
やっぱりな
やっぱり彼はわいには優秀すぎる助手だ


「悪かったな」
「いえ…先生と3日目も一緒に過ごして研究できて幸せでした。残りの4日間もそうしたいくらいなんです…だけど先生やはり顔色が…」

よほど酷い顔なのだろう
自分の幸せよりもわいの体調を気づかう
やはり彼は…


ちょうど約束の3日目だし…


「ほな今日明日は一旦帰って、明後日からまた再開しよ。わい、直してくるわ」
「よろしければお送りいたしましょうか?」
「なぁに…平気や」


そういうとわいは鞄に必要最低限なものだけをつめ帰り支度を整えた
どうせ明後日にはもどるのだ


「先生、置き傘どうぞあとこれも」
そういって手渡されたのはレインコート


「僕のですけどきっと着れますから」


そういいながら笑うかれ
「せやけど君のは?」


そういうと彼は微笑みながら
自身の鞄をあさりもう1着レインコートを出した


「ちゃんとありますから大丈夫です」
図らずも同じ模様だったが彼は気にもしなかった

「ほな借りてくわ、ほな、おおきに」
「はい、気をつけて帰ってくださいね」

軽く敬礼をし見送る彼を置き去りにしわいは研究室の扉を閉めた

「ほんまに…酷いなこれ…」
風は強く
吹く方向はめまぐるしく変わる
その風に促されるように雨の向きも転々とする
おかけで傘など全く役にたたず
しまいには強風に負け
ただの棒に布切れがついたものになりはてていた
でくのぼうのほうがまだ使えるというものだ

「ほんまに…レインコートあって良かったわ」
足までスッポリかくれるレインコートのおかげでわいは全く濡れなかった

「(傘かいなおさなな…)」
置き傘といわれ素直にうけとったが
置き傘にしては綺麗すぎたきっと彼のものだろう…

そんなことを考えながらようやく家が見えてくる
雨風のおかげでわいはいつもの三倍時間がかかってしまっていた


「ったく…やっぱり雨の良さなんか…!!」
ふいに顔をあげ驚愕する

大雨の中
家の前に立っているのは

間違いなくトピだった

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まだ続きます~

こんなのだと思ってたって?オダマリ!!!

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