*ビターアルコール*

「何があったのさコイルくん」

僕はそう声をかけるけど
彼はどこふく風
全く無視


僕に一瞥もくれずに持参した日本酒を呑んでいる


はぁ



僕は息をつく

そもそもここは僕の家なのに
まるで我が物顔
コイルくんの別宅みたいに扱われてる



テーブルに90°の位置で座っている僕ら

コイルくんは僕をみていない


ついてるテレビをみている
ただぼんやりと


無駄だ


僕はそう悟って
コイルくんが持ってきていた袋を下げて台所にいく


持ってきてるものはわかってる


コイルくんは荒れてる日はいつもここにくる


持ってくるものもいっつも一緒


入ってくるなり僕のほっぺたを一握りするのもいっつも一緒

テーブルからテレビが一番見やすい位置に座るのもいっつも一緒


僕は袋を漁って一言
「やっぱり」
そういいながら少し笑う


袋の中は黄色い油揚げ


コイルくんはいっつもこれだね


軽くコンロにかけて炙る
香ばしい匂いが漂う

「あれ作ってくれよ」
「はいはい」


聞こえてきた気怠い声に
それを予想して準備していた僕が笑って応える


ジュワアアアアア


景気のいい油の音
そこに黄色い液体
液卵を注ぐ


サッサと纏めて
皿に移す


壺から菓子の袋を出し
それもあけて別皿にだす


卵焼きの隣に炙った油揚げをそえて
皿二つもって戻る


机に皿二つをおく
コイルくんの近くに卵焼きの皿を
僕の近くにポテトチップの皿を


コイルくんが皿がつくなり食べ出した
これもいつもと一緒

だから僕もポテトチップを口に運ぶ


パリッと消え入りそうな音が響く


「コイルくんはいっつもそれだね」
「お前もだろ」
「そうだね」


彼が僕にお酒を注ぐ
いつもより気前よいのもだね


そう思いながら僕はそのお酒を呑む


少し痺れるような感覚と
脳細胞が死滅するような感覚


今日もまた一段と強い酒だなあ
そんなことを思ってもう一口


「なーんかあったの?」
「…俺の悪口いってた奴らがいたんだよ」

「そっか」

「だからビリビリに焼いてやった」
「そういうことするから…」
「ふん」


そういいながら油揚げに彼は手を伸ばす

僕もポテトチップを食べる


くちゃくちゃという不快音

パリッパリッという渇いた音


それらが響きあう
テレビは依然としてつまらない内容
他人の家庭の話なんてつまらない


「ふん、つまんねえな」
「そうだね…この時期はそうだよ」
「ふん、たいして変われもしないくせに」


「俺とおんなじだよ」

急な発言
でもそれもわかってた


お酒が少し回ってくると
たまに出てくるコイルくん


「どうしたの急に」
「…なんでもねぇよ」

「そう?」
「…昔から変われない、イライラしちまったらすぐ手がでる」
「コイルくん手ないじゃん」
「やかましい」


笑いながら僕がいうと
再びほっぺたを一握りする


「ええい、今夜は泊まるからな」
「ふゃい、ふゃい、わかったからはなひてよぅ〜」


離すと彼は横になる
完全に寝る気満々だ
やれやれ
僕は机上の残骸を片付ける


「みんな離れていっちまう」


そうポツリと吐いたセリフ

それが本音なのかただの寝言なのか
それはわからない


けれど


「僕がいるよ」


気がついたら出ていた

僕のは本音


コイルくんの返事はなかった
「僕は離れないから」

それだけいうと
僕は台所に向かう
残骸を早く片付けて

君に布団をかけないと


君の隣にいかないと

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驀進中コイピカ。なんていうかこの微妙な距離感が書いてて楽しいのです

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