*止めてほしい年明け

「あけましておめでとう」

「あけおめ〜」
「ビビーあけましてオメデトウ!」


寒い空の下、僕らはエスケープの家の外、庭にいた


また一緒に年を越せた
そんな安堵が僕の心に生まれた


それは
そう思うのは
正しいことなの


そうやって自分に自問し

視線をエスケープに向ける


エスケープはレアージュと何かを話しているようだった


その顔は無邪気で楽しげで
ボクの大好きなエスケープだった


エスケープはこの世界のポケモンではない
ポケモンですらない
エスケープは人間

事情はわからないが、エスケープは人間がポケモンになった姿


その事はボクしかしらない事


ねえ、エスケープ


君は何を考えているの
どう考えてるの
どう思ってるの
僕のこと
救助隊のこと


この世界のこと


どう考えてるの
どう思ってるの


気になるなら
君に聞けばいいのに
それができない
怖がりなボク


君と出会った年から
ボクはちっとも変わってない


新年になったばかりなのに
もう予定を実行できなくて
挫けてるボクがいる

情けない話だ


いつか
いつか
いつか
きっと
君と過ごせない年が来てしまう気がする
きっとこれは必然
絶対だ


いつかきっとサヨナラはめぐってくる
いつかきっとサヨナラが迎えにくる


それはわかっていること


仕方ないことなのに
わかっているはずなのに
年を越すたびに
この言い知れぬ不安にかられている


おめでたいはずの初っぱなから
何故こんな思いをしなくちゃならないのだろう


でも
エスケープと出会ってから
これは毎年あるイベント
ボクの中では
除夜の鐘や初日の出と同じような扱いになっていた


ちらっとまた視線をもどす
相変わらずエスケープとレアージュは楽しそうに話をしている

何もしらないような
何も覚悟していないような無邪気な顔

君らしい
素敵な表情


どうして
どうしてなの?
君だって
覚悟してるはずだろう
君くらい賢いなら
わからないはずない
いつかくるサヨナラを


なのにどうして
どうしてなの
どうしてボクだけが、こんなにも
つらい思いをしなくちゃならないの


こんなにもつらい

心が
つらくて寒くて
痛い


「寒っ」


ふいに響いたエスケープの声


確かに寒い


心じゃなくて
身体が寒い
身体も寒い?


どっちかな
よくわからない


「ビビー雪ダ!」
「本当だな…」


空を見上げると
振りゆく白雪


それらが
顔に
身体に
当たっていく


冷たいなあ…
寒い…


「ビビー?どうしたダネー泣いてるノ…カ?」

レアージュにそういわれて
ボクは頬を涙を伝っていたことを知る


「違うよ」
違わないのに


「雪のせいだよ、雪が顔に当たって涙みたいになっただけ」

雪のせいじゃないのに

でも救われた
ありがとう雪


降り止まない雪

強くはないが
はらりひらりと
抜け落ちた白い羽のように舞い散る雪


全部
全部
全部


雪のせいなんだ

この心の寒さと辛さも

みんな
みんな雪のせい
みんな雪のせいなんだ


ボクだけ雪が芯まで冷えてしまっただけなんだ


ボクだけ
雪のせいにしたはずの水が
瞼の中から溢れてきた

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