*スター*


首もとに強力なアームハンマーがまるでラリアットのようにきまる
一瞬呼吸ができない感覚に陥る
胸郭が圧迫され肋骨が軋む


気がつくと大きな水音をたて水中にいた


負けるわけにいかない…



水底に落ちていく感覚を意識しながら
僕は必死に気をふるいたたせる
頭が上手く回らない脳が揺れてるのだろう


だが負けるわけにはいかないのだ


今日は


今日だけは…


今日はあの人が見ていてくれている
今日だけは無様な姿を見せられない
見せられないのだ

意識をはっきりさせると水面に向かって水底を力いっぱい蹴る
水面にあがる呼吸すらままならない三半規管がやられたか…
目を横にずらす
変装を施してもいつもの優しい強い彼がいる
黒いベールの向こうから心配そうな視線をなげかけてくる


「何故起きた!!」


そういいたげであった
他の誰にもわからないように
彼にだけにっこりと微笑む


彼の体が一瞬震える
敵に視線を向ける
随分と興奮しているようだ
上手く掻き回せば勝てるかもしれない
そんな淡い期待を抱いて一歩一歩歩む


しかしほどなくして視界が真っ暗になったかと思うと意識が完璧に混濁した







気がつくとベッドの上だった
痛々しく巻かれた包帯が勝敗を明確にしていた

ああそうか…
僕はまた…
また…
負けたんだ…


あの人が見てくれている前で起き上がろうと力をこめた腕に痛さが走る
ああ…


やっぱり負けたんだ…


そう再び実感した僕を大量の悲しさが襲った
一筋の冷たいものが頬をつたった
舐めたらきっとしょっぱいのだろう


また負けた
またあの人の前で負けた
またあの人に良いところを見せることができなかった…


どうして…


キュッという音を立ててシーツにシワがよる


悔しくて
悔しくて
やりきれなくて


心がどうにかなりそうだった


いつもこうだ
どうしてどうしてあの人の前でいつも良いところを見せられないのだろう
あの人が敵対しているときはいつも勝てているのに
良い成果を残しているのに…


どうして…


どうしてあの人の前では良いところが見せられないのか


「ちっくしょう!!」


大きく声を張り上げベッドを叩く
布団が衝撃を吸収し思うような音はでなかった
唇を噛みしめるとたんに鉄の味が口腔に広がる


「アイドル人気ポケモンがそんなはしたにゃい言葉使いするもんじゃないにゃ」
声のしたほうを向くそこにはやっぱりあの人がいた
開いた窓からいとも簡単に柔らかく入ってくる

その姿は彼の種族としての特性と
普段の振る舞いがいかに演技であるかを明確に表している


愛しの人が来てくれても
僕の表情は
心情は変わらない


それどころか迷惑と手間をかけさせてしまったと後悔が募る
胸が酷く痛い
「ごめんね…僕また…」
「なんで謝るにゃよ気にすることないにゃ。怪我大丈夫かにゃ?」
「うん…そんなに痛くないし…」


こないだよりはこないだライチュウに負けたときに比べたら痛くない怪我
怪我は痛くないけれど胸の痛みはこの間とは比べものにならない

この間はただただ負けたことが悔しかった
けれど今は違う負けたことの悔しさなど二の次だ
良いとこを見せられなかった
その悔しさだけが不甲斐なさだけが募っていくる
「ま、しっかり休んで早く治すにゃよ」
そう言って笑うと僕のおでこにキスをする


柔らかくて
優しくて
柔らかかった


満ち足りなくて唇を差し出すと優しくキスが落とされた
わかってるあなたはこんなに優しくて
暖かい人なのだから


僕が負けたくらいで嫌いになんかなるわけがないって


だけど…
だけど…


不安になる
あなたが初めて私を見たとき
あなたは私の強さに惹かれ強い僕を好きになった


だから


だから今でも不安が募る


もしかしたら
もしかしたら
もしかしたら…


思いだすと止まらない
最低なやつだなって思う
好きな人のことが信じられないなんて


だけどそれだけあなたのことが大切であなたを失うことが怖い…


だから…


だからわかって欲しいこの気持ち


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久しぶりの更新ですねお久しぶりですすいません
これからなるべく更新しますとも!!
てなわけで久々の更新はやっぱりニャピカで
後日+αをアップします♪

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