「今夜は一段と冷えるな」
言葉をかける相手などいない


目の前の相手は今は意識はなく
病魔という敵と必死に戦っているのだろう
額に多く浮かぶ雫と
荒い息遣いがなによりの証拠だ




*護*




少し視野を遠くにずらすと
ヒトカゲとゼニガメが静かに眠っているのがわかった
ゼニガメはもともとピカのそばにいたが風邪がうつるとまずいのでヒトカゲに移動させた
ヒトカゲにも先に寝てもらった流石に徹夜はつらいので途中で交代しようということになったからだ
視野をもとに戻す


いま目が開いているのは自分だけだった



「ごめんな」
出した小さな言葉は冬の風音にかきけされた



暖めた水でタオルを絞りピカを起こした
汗だらけの体は見るにたえないくらい


辛そうで
苦しそうで
気持ちが悪そうだった


だから少しでも楽になればと思って拭くことにした
でも


心では拭こうと思っているのに
手が震えて上手く拭くことができない


「なあにがなれてるだ…」
よくもまああんなかっこつけた言葉が言えたもんだ


なにもなれてなどいない
今も手の振るえが心臓の鼓動がおさまらない



いつこの存在が消えてしまうのかと思うととてつもなく恐ろしい



気がつくと抱きしめていた
耳元に荒く苦しそうな息づかいが響く


抱きしめたのなどいついらいだろう?
もっともガキのころはよく抱っこしてやったものだ
だが久々に感じたピカの存在
嫌な汗で体が湿ろうと
病魔に火照らされた熱い体に触れようと構わなかった


久々に抱きしめてみてわかったピカはとても細い


別に飯をやってないわけではない
ピカが食べないわけでもない
ピカはもともと細い
うちのかなの誰よりも


ちょっと力を強めれば簡単に折れてしまいそうなくらい
背だって低いし
体重だって誰よりも軽い


そして何より


ピカには肌を守るものがなにもなかった
柔らかな皮膚を守るものは何もない
ゼニガメのような甲羅もなければオレのように皮膚が堅いわけでもない


いまオレが強く爪を立てればきっとすぐに血が吹き出てしまう
いつも怪我をするのはゼニガメばかりだっただから忘れていた


なんでこんな大切なことを忘れてたんだ
なにがなれてるだ
何ひとつなれてなどいないこんなに小さくて細いやつの魂の灯火なんていつ消えてしまったっておかしくない
自分の言葉を二度も後悔した



「ごめんな…ごめんな…だから元気になってくれよな」
いつの間にかこぼれた雫は落ちて嫌な雫と混ざった


強く抱きしめた腕をほどきピカを再び寝かせた
「用事はすんだ?」
ふいに後ろから声がして驚いて飛び上がりそうになった
ふりかえるといつからいたのかヒトカゲが立っていた


「いつからいたんだよ」
「さあ?」

はぐらかすように笑うヒトカゲからばつが悪くて顔を背ける
「何のようだよ」
「何って交代だよ」


そう小さく笑うヒトカゲにまた目を向けると
ぼんやりとした明るさの部屋でもはっきりとわかるくらいくまが出来ていた


「バカやろ仮眠もとってねえやつに代われるかってんだ」
「寝れないからさきに診てた人がなに言ってんだか」
「けっ…何でもお見通しってか」
「長いつきあいだからね」


笑いながら隣に座るヒトカゲに決意をのべる
「もうこんなことにはならないならせない」
ピカとゼニガメを交互にしっかりと見てさらに強く言った
「こいつらは俺らが守る」


隣の相棒に静かに拳をつきつけると相棒も静かに拳をつきつけた


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胡麻さん宅のキャラを借りよう第2弾です
もうキャラが一人歩きしてるような感じになってしまって申し訳ないです(汗
次回はギャグものとかもかいてみたいやもw

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